雑誌掲載

【特別寄稿】筋無力症友の会40周年記念 筋無力症ハンドブック

2012年6月10発行
「全国筋無力症友の会40周年記念 筋無力症ハンドブック」 へ
「筋無力症の内視鏡下胸腺手術について思う」を寄稿致しました。 

CLINIC magazine 2007年8月号の「リポート・先端医療の伝道師」

筋無力症の内視鏡下胸腺手術について思う

私と筋無力症患者さんとの初めての出会いは医師1年目の研修医の時でした。今から36年前の1976年5月に初めて副主治医として担当した患者さんが男性の筋無力症患者さんでした。筋無力症という内科疾患なのになぜ手術なのかと素朴な疑問をいだきながら、第二助手として手術に入らせていただきました。手術前の試薬の注射で患者さんの垂れ下がった瞼がパッと開き、まるでマジックのように二重瞼になられたことを今でも鮮明に覚えています。医学教科書にも明確に書かれていなかった筋無力症患者さんの胸腺摘出術を医師1年目の最初に体験しました。

大学付属病院での1年間の研修医生活を修了し、その後、大きな公的病院へ一般外科医として赴任。そして、大学病院へ戻り研究生活を経て、今度は呼吸器外科の責任者として公的病院、民間病院へ出向し、多くの呼吸器外科疾患の手術を担当させていただきました。その頃、外科手術に普及し始めたのが内視鏡下手術でした。腹部の胆嚢摘出術から始まり、あっという間に呼吸器外科手術にも広まりました。私自身も肺に穴が開く気胸の内視鏡下手術を1990年よりスタートさせていましたが、泌尿器科の先生から胸の奥の縦隔にある副甲状腺腫瘍の手術を依頼され、内視鏡下で胸腺内腫瘍の摘出を行いました。1997年5月、初めての胸腺手術の出会いからちょうど21年目でした。その手術で用いた手法が胸骨つり上げ法という新しい手術法でした。そして、1997年12月に同手術法で筋無力症の拡大胸腺摘出術を行い、それ以降、胸腺腫などの胸腺腫瘍にも応用し現在まで300名近くの内視鏡下胸腺手術を施行させていただいています。

外科手術の適応となる筋無力症や胸腺腫などは、やはり疾患数そのものが少なく、まして患者さんが胸腺の内視鏡下手術の存在など知るすべもないことは当初から分かっていました。しかし、私自身何とか患者さんにこの手術を早く伝えたい、紹介して知ってもらいたいという思いから個人でインターネット上にホームページを1999年に開設しました。次第に患者さんからの手術内容の問い合わせが増え、手術後経過が良くさらに口コミで胸腺の内視鏡下手術が広がっていきました。全国筋無力症友の会の当時大阪支部長の浅野様に初めてお会いしましたのもその頃です。長期的な成績はまだ不明ですが、大きな傷がつき、傷口が痛み入院生活を強いられることに抵抗を抱かれ手術を避けていらっしゃる患者さんには朗報になるかもしれないとお言葉をかけていただきました。その後、筋無力症友の会の温かいご支援も重なり、現在まで多くの筋無力症患者さんの内視鏡下手術をさせていただいています。長期成績も出だし、2008年1月の学術雑誌に110名の10年間の中間成績結果から従来の開胸の手術成績と変わらず有効であるとの報告をさせていただきました。顧みますとインターネットいう速攻性に長けた情報伝達の媒体がなければ、民間病院の一外科医と筋無力症の患者さん達との多くの出会いがなかったと思います。

現在、筋無力症の内視鏡下手術をされる施設は呼吸器外科がある病院の3割といったところです。症例の少なさ、手術自体の難しさや保険未収載などから内視鏡下手術を採用しない施設が多いようです。また、特に私の手術は普遍性に乏しいのではないかと言われる先生もいらっしゃいます。
しかし、希少な疾患であるからこそ専門性の高い領域に委ねられ、その手術法も安全性の面からある程度の標準化は必要ですが、最良の着地点までは普遍性にいささか欠ける手術術式であってもいいのではないでしょうか。私は日々内視鏡下胸腺手術をしながらそう思っています。

重症筋無力症の内視鏡下手術はここ5年間、毎年手術の保険収載申請に上っていますが、未だ認可されていません。現在は各自治体への高度先進医療での申請許可でその都度実施されているのが現状です。この高度先進医療が長く続きますと保険収載されないことが過去の手術保険収載申請から明らかとなっています。
本手術の保険未収載が外科医の内視鏡下手術の実施を妨げている一因になっていることは事実です。医療は、患者さんと医療者が信頼関係で結びつき、互いに育てていくものだと私は思っています。学術学会からの毎年の保険収載への申請は継続されますが、全国筋無力症友の会のお力添えも期待し保険収載の実現にこぎ着けていただきたいものです。

友の会の紹介で手術をさせていただきました患者さんからお便りやお礼のお手紙、メールを今でもたくさん頂戴いたします。手術後に症状が次第に改善し普通のように暮らしている幸せへの感謝の言葉。結婚されお子さまに恵まれました幸せへの感謝の言葉。これらは医療人にとって至福の言葉です。
外科医になってよかった、と。

全国筋無力症友の会40周年の記念誌に寄せて

【特別寄稿】

プロフィール

1951年生まれ。
1977年 北里大学医学部医学科卒業、
同年大阪大学第一外科医員。
大手前病院、奈良県立医科大学、大阪医療刑務所病院法務技官、国立呉病院、大阪府立病院、大阪警察病院呼吸器外科部長、大阪警察病院呼吸器外科客員部長、聖授会OCAT予防医療センター所長を経て現職。
1997年世界で初めて胸骨をつり上げた胸腺の内視鏡下手術を開発。
1999年内視鏡下手術の安全性をより高めるために、ハンドアシストを併用した胸腔鏡下手術法を発表。
重症筋無力症や縦隔腫瘍に対する胸腔鏡下手術の第一人者。
日本呼吸器外科学会終身指導医・特別会員、日本外科学会認定医、日本胸部外科学会終身指導医、日本小切開・鏡視外科学会設立理事、日本医師会認定産業医。

手術・医療相談

全国の医療施設で診断されました肺腫瘍や胸腺腫瘍の患者さんの画像再診断や今後の手術(内視鏡下手術)のご相談を行っています。すでに確定診断されました重症筋無力症患者さんの内視鏡下手術治療法のご相談も行っています。画像再診断や手術法のご相談を承っています。

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