胸骨下ハンドアシスト法による内視鏡下肺縦隔手術
この手術は鏡視下手術の患者さんへの負担の少なさと切開手術の確実性を高める利点を併せ持つ方法です。胸腔鏡下手術では、手術器具が長く、テレビのモニター画面をみながら手術操作を行いますので手術に多少時間が必要です。また、外科医の五感の一つである触診ができないために情報収集が若干低下します。すなわち、内鏡視下手術の欠点は、従来の開胸術に比べ確実性が少し劣ることです。
一方、胸腔鏡下手術でも、実際には病巣部の摘出に小開胸が必要となるわけですが、このときに肋骨と肋骨の間の筋肉を切り、その間を広げる開胸器を使用します。時に、この創痛が原因で早く退院できない患者さんがいらっしゃいます。肋骨と肋骨の間には肋間神経という太い知覚神経が必ずありますので、開胸器を使用すると少なからず痛みを伴います。われわれは、小開胸に匹敵し、痛みが少ない場所として正中上腹部を選びました。この部位は、神経がなく、筋肉を切らずに胸の中に到達できる唯一つの場所と思われます。そして、その箇所から術者の手を入れ胸腔鏡下手術を補助すれば、痛みも少なく、手術自体の確実性も増す胸腔鏡補助下手術が完成するのではないかと考えました。
1999年9月から承諾がえられました36名の患者さんにこの手術法を応用しました。その結果、36名の患者さん全てで、手術時間は1時間弱と短く、術後の創痛も少なく7日以内の退院が可能でした。また、術中、術後の合併症は今までのところ認められていません。35名の患者さんの疾患名は、転移性肺癌16例、縦隔腫瘍9例、重症筋無力症3例、肺動静脈瘻3例、原発性肺癌2例、良性肺腫瘍2例、特発性横隔膜麻痺1例でした。現在のところ、この手術法の適応疾患は、良悪性を問わない肺の末梢に病変を持つ疾患群と手術操作が胸腔鏡下手術だけでは困難と思われる縦隔腫瘍です。また、両肺に病変があります疾患群には最適です。この手術の手術風景をイラストと写真で示します。

手術風景

胸骨下ハンドアシスト法による鏡視下肺縦隔手術

胸骨下ハンドアシスト法による鏡視下肺縦隔手術