胸骨拳上式内視鏡下手術-胸腺腫の胸腺腫・胸腺切除術に応用
胸腺腫は縦隔腫瘍の中で最も発生頻度が高く、ほとんど全てが手術の対象となります。胸腺腫は癌ではありませんが悪性腫瘍です。すなわち、近接する気管、肺、食道、大血管、心臓など重要な臓器へ浸潤し、また、切除しても再発し生命を脅かすからです。胸腺腫の内視鏡下手術は慎重でなければなりません。他臓器、特に左腕頭静脈や大血管へ明らかに浸潤が認められる場合は、現在のところ適応はないと考えています。肺や心膜へ浸潤している場合は、その完全切除が可能な時に内視鏡下手術の適応があると手術中に判断しています。腫瘍が被膜に囲まれているか、もしくは腫瘍が胸腺内に留まっているかの場合が最適と考えます。
1999年5月より胸腺腫の内視鏡下手術を開始し2022年10月現在までに109例の患者さんに施行しました。2007年12月までに施行した54例(表1)の内4例の患者さんが、血管が損傷されたり、腫瘍が周囲に飛び散っていたことや腫瘍が大血管に近接していた理由で開胸術へ移行されました(表2)。内視鏡下手術が行われました50例の患者さんは、術後の痛みも軽微で術後10日以内の退院が可能でありました。2022年10月現在まで再発は胸腺腫5例、胸腺がん2例の7例です。

表1

表2
■欄外の解説
- 表1:
- 非浸潤性胸腺腫に対し内視鏡下胸腺切除術を施行しました患者さんの背景。
症例数は54例で男性22例、女性32例。年齢は28歳から90歳までで平均は53歳。
正岡の臨床病期分類はI期 39例、II期 14例、IV a期1例。
腫瘍の大きさは13 mmから90 mmまでで平均40 mmでした。
重症筋無力症を合併されていました患者さんは20例でした。
術後腫瘍組織のWHO分類(悪性度をあらわす指標の分類でAは最も良く、Cは癌など)
A:8例, AB:14例, B1:14例, B2:10例, B3:3例, C:4例, 分類不能1例でした。 - 表2:
- 非浸潤性胸腺腫に対する内視鏡下胸腺手術の結果。
54例の内訳で内視鏡下手術が最後までできました (Completion) のは、胸腺腫周囲の胸腺切除範囲で胸腺全摘が22例、胸腺部分切除が20例。
開胸術へ移行 (Conversion) されましたのは4例でした。
再発 (Recurrence) は胸腺全摘の1例にみられています。
手術時間 (OT) の平均は全例で166分, 胸腺全摘で200分、胸腺部分切除で135分でした。
術中出血量 (bleeding) の平均は全例で89分、胸腺全摘で109分、胸腺部分切除で70分でした。
術後ドレーンの平均留置期間 (Drain) は全例で2.3日、胸腺全摘で2.5日、胸腺部分切除で2.1日でした。
術後平均観察期間 (F/U) は全例で37ヶ月、胸腺全摘で51ヶ月、胸腺部分切除で24.7ヶ月でした。
【胸骨吊り上げ法(城戸)】