講演内容
内視鏡下胸腺摘除術は非浸潤性胸腺腫や重症筋無力症(MG)の拡大胸腺摘出の標準手術になった。本手術手技の最大の難所は胸腺静脈の左腕頭静脈からの切離である。私が経験した本副損傷例と他施設で失血死した同2例を検証し胸骨縦切開へのコンバートの重要性を説く。全例仰臥位で本手術を23年間350例以上に施行し左腕頭静脈損傷は5例(胸腺腫3例、MG2例)。本損傷初回例は胸腺腫適応3例目で胸腺非定型カルチノイド。右VATSからのアプローチ時に左腕頭静脈本幹を損傷。胸骨縦切開へコンバートし止血。出血量は900mlで術後輸血施行。2例目はMG適応20例目で術後帰室後に出血し胸骨縦切開で止血。出血量は1100mlで輸血施行。他3例は同出血で胸骨縦切開を行い止血。出血量は500ml以下で輸血は施行せず。他施設の失血死2例は胸腺腫例。術中ビデオ記録が確認できず手術所見では、いずれも左半側臥位、右VATSで手術が開始され左腕頭静脈を損傷、止血できず側胸、前方開胸へコンバート。止血できず次に1例は同肋間から、1例は1肋間上位に上げ胸骨をそれぞれ横断。止血できずさらにPCPSが開始され心臓血管外科医の応援を得て1例は胸骨縦切開を追加し初回出血から50分後に止血、1例は初回出血から110分後に止血。いずれも低酸素脳症で術後3日目と1年後に死亡した。内視鏡下胸腺摘除術の左腕頭静脈からの出血時には猶予ない胸骨縦切開へのコンバートが必要である。